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今やゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーの顧客へのアドバイスによって上げる収益は、全体の一割程度に過ぎなくなっているほどだ。
ウォール街で、激しい生存競争を生き残ったインベストメント・バンクは、株式公開と借入金により、巨額なバランス・シートを手に入れることに成功し、自己勘定による投資で勝負する金融機関に変身したのである。
もはや顧客アドバイザリー業務は不採算部門に過ぎない。
顧客という概念は、「市場の一部」に置き換えられてしまった。
そうした生き方がやがて自らを破滅に導くと知るのは二○○八年になってからである。
ゴールドマンは巨大なヘッジファンド一九八○年代後半、私はゴールドマン・サックスの不動産部門に所属していた。
日本から押し寄せてくる巨額の資本を相手にして、オフィス・ビルやホテルを次々に売却し、また邦銀の資金でリファイナンスすることが主たる仕事だった。
しかし、やがてゴールドマン自身も、「自分たちも不動産投資をしょうじやないか」といった雰囲気になった。
例えば、ロンドンに自社ビルを建設するなど、不動産投資事業を本格化させていく。
私自身もかかわった不動産投資案件もある。
カリフォルニアのホーム・セィビングスゴールドマンの不動産部には、当初三人のパートナーが居た。
その一人にクロード・バンクと住友不動産の合弁住宅開発事業では、手数料を現金でなく、事業の持分で受け取ることにして、彼らのパートナーとなった。
ニューヨークでは、ゼッケンドルフのアパート建設プロジェクトに住友不動産販売に参加を依頼して、同じように持分を一部持つパートナーとなった。
このような小さな案件を手始めにゴールドマンの投資銀行部門は、自己勘定で不動産投資を行うようになっていった。
こうした経験を積んで、ゴールドマンでは本格的に自己資金を注ぎ込んで投資する「ホワィトホール」と命名したファンドが組成されるようになる。
投資対象は不動産に限らない。
企業買収案件にも投資した。
今ではゴールドマンは、不動産部門でも企業部門でも、世界の中でトップクラスの大投資家となっている。
アジアにも進出した。
アジア地区の不動産投資の拠点は香港に置き、バンコクのホテルなどに投資をしたりしたが、やがて日本でも投資活動をスタートさせた。
バブル崩壊で破綻した不動産物件などに投資したが、いくつものゴルフ場を買ったことで有名だ。
こうした変化をゴールドマンのすべてのゼネラル・パートナーが喜んだわけではなかつラードが居た。
彼はこの道のベテランだったが、きわめて保守的な人物でもあった。
一九八八年のことだ。
彼が引退することになり、いろいろとお世話になったお礼の挨拶をしようと会った際に、こんなことを言っていた。
「君は、いまこの会社のバランス・シートが何に使われているか知っているか。
ありとあらゆるものに相場を張っている。
コーヒー豆だ、金だ、金利スワップだ、先物だと、あらゆるものでギャンブルしている。
私のような年寄りには、いったい何をやっているのかさっぱり分からない。
それなのに、そこにパートナーとして私の財産をすべて突っ込んでいるのだから、おっかなくてしかたない。
大火傷をしないうちに、私は引退させて貰おうと思ったんだ」クロードはもう少しゴールドマンに残っていれば、会社の株式公開でもっと大きな財産を手に入れることができただろう。
しかし、既にその当時でさえ会社は、無限責任を負うゼネラル・パートナーの立場では、「怖くてしかたない」というほどに大きなリスクを取っていたということである。
現在、有限責任会社としてゴールドマンが取っているリスクは想像を絶する。
ゴールドマンをウォール街の人々は、「世界最大のヘッジファンド」と呼んでいるほどだ。
今後、投資銀行に対する規制が強化されれば、彼らは投資銀行業務を止め、純粋なファンドになってしまうかもしれない。
「チャイナ・ウォール」機能せずゴールドマンの不動産部門が自己投資を始めた頃のことだ。
私の同僚が頭を抱えていた。
私も彼も、その当時「インベストメント・バンキング・サービス」という顧客担当だった。
簡単に言えば、顧客を回って、仕事を取ってくる営業職だ。
彼のもとにシカゴの顧客から電話があった。
顧客はカンカンに怒っているという。
「昨日、お前は私に会いに来て、仕事が欲しいといった。
そこで私の市場の見方、価格の付け方、投資方針などたっぷりと聞いて帰っていった。
ところがどうだ。
お前の会社は、私が入札しているビルに入札しているというではないか。
私の商売の邪魔をして、喧嘩を売る気なのか」さすがにその時は、ゴールドマンは入札を下りた。
そしてパートナーが丁重に謝罪して顧客の怒りを収めた。
その後は、利益相反関係の調整には不動産部全体が、慎重に行動するようになった。
やがて、多くの投資銀行の顧客サービス部門は、投資部門とは明確に分離され、顧客に対しては「二つの部の間にはチャイナ・ウォール(万里の長城のような高い壁)があります。
これはまるで二つの別の会社です」と説明するようになった。
しかし、多くの投資銀行や商業銀行において、これは言い訳にすぎないだろう。
何よりトップは同じだし、実際にはたくさんの情報交換が行われている。
バンカーから上がってくる情報は、投資部門に対しては一方通行で、その情報をどう使おうと投資部門の勝手だという考え方もあり、顧客サービス部門が得た情報が共有される。
それに投資部門が得た情報が有益だったということになれば、その情報提供者にはボーナスが出るといった制度を採用しているところすらある。
加えて自社の投資部門は、投資銀行部門にとっても上客である。
二○○七年春には、アメリカの全買収の三分の一が投資ファンドによってなされたが、投資銀行は、自らファンドを組成したり、第三者が運営するファンドに投資したり、投資資金を集めたりして、深く関わっているのだ。
また、そうした関わりがあればこそ会社の買収、売却の取引を獲得するのに重要な役割を果たすことになる。
基本的にチャイナ・ウォールは、実際には機能しないと思った方がいいだろう。
ヂI格下げされたバンキング部門実は、こうしたコンフリクト(利益相反関係)は、一般企業に深刻な問題を生じさせているのだ。
仮に、インベストメント・バンカーが、あなたの会社を訪ねてきたとしよう。
そのときの本当の目的とは、いったい何なのだろうか。
かつてのマーチャント・バンクのように、その会社の抱える経営上の悩みに処方菱を書き、それを実行し、その会社の成長を助けることなのだろうか。
それとも業績不振に陥っているその会社の株を、市場で安く買い上げるための情報収集なのだろうか。
実は、訪ねてきているバンカー自身、そのことが分かっていないこともある。
また、バンカーにあなたの会社の業界に関して、各社の強み、弱みを丁寧に説明したとする。
そのバンカーが所属する投資銀行が、次の日、競合他社を買収し、突然競合者になってしまったらあなたは何と感じるだろうか。
二度と業界の知識を披露しようとは思わないだろう。
そうしたことが当たり前のように起こる時代になってしまったのである。
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